2020.05.12

2020年新卒に贈る「レジリエンス講座②」~頭痛にはロキソニン。ネガティブ感情には?~

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鳥谷部大樹  2020年3月、住み慣れた東京から家族5人で沖縄県久米島に移住しました。サトウキビとパイナップル畑、バナナの木に囲まれた自宅オフィスから、well-being(幸せ)についての研究とワークショップ、幹部向けパーソナルコーチング、コーチングトレーニングをしています。

下降に抗うフェーズで役立つ3つのこと

今回は学術的な根拠をベースにして「下降に抗うフェーズ」について。

このフェーズで大切になることは以下の3つです。

 

【1】丁寧な日常生活

【2】ネガティブ感情を減らす活動

【3】柔軟で前向きな意味づけ

 

これらは誰の目にもわかりやすい、ドラマチックな変化を 生み出すアクションではないかもしれません。

しかし、これ以上のネガティブで苦しい状態に陥ることを回避するためには

こういう小さなことの積み重ねが大切なのだと思います。

【1】丁寧な日常生活

自称「暗黒」の新卒時代、それはレジリエンスなんて聞いたことがなかった時代、

飲酒の大ベテランである先輩方と無茶な飲み方をしたことがあります。

 

〇〇さん、ちゃんと仕事してくれませんか?と、人のことを言えない僕が口を滑らせる。

すると、オマエこそもっといい仕事しろよ、と怪しいろれつで言い返される。

周りは囃し立て、ふたりはこれも心を通わせ合うためだと言わんばかり、酒を飲み交わし続ける。

しかし真実は、うまく消化できないネガティブな感情をお互いにごまかすためだったような。

 

翌朝気が付くと、僕は見知らぬ家の、広い和室の布団の中でした。

どうやら、その後どうしようもなくなった僕に手を焼いた先輩方は、

不幸にもたまたまそこを通りかかってしまった僕の同期に僕を託し、

本当に不幸な彼は近くの実家で僕を介抱してくれていたようなのです。

(OWの小泉部長の実家でした。)

 

こうなってしまうと、レジリエンスも何もなくなってしまうのです。

仕事のネガティブ感情から立ち直る前に、

二日酔いによるネガティブなコンディションを抜け出なければなりません。

 

結論、そして教訓的に学んだこと。

ネガティブな気持ちに支配され、まともな思考や行動のコントロールが効かなくなると、

そんなつもりはなくても人はついつい「〇〇し過ぎ」に陥ってしまう可能性がある。

また、別の視点でいうと、「〇〇し過ぎ」と引き換えに、

日常生活の「普通に行われるべきこと」がどんどんいい加減になっていく可能性がある。

 

レジリエンスは、整った日常生活を足場にせずして生まれうるものではありません。

「下降に抗うフェーズ」で一番に大切なのは、丁寧な日常生活を大切にする。 

これなのです。

 

たとえば、

・定時に寝て定時に起きる

・挨拶をしっかりする

・シャツにアイロンをかける

・靴をきれいに磨く

・かばんやデスクを整理する

・書類をため込まない

などなど、これがレジリエンスの足場です。

【2】ネガティブ感情を減らす活動

そのような恥ずかしい苦しい教訓的な経験に始まり、レジリエンスを探求し続けた結果、

確実にネガティブ感情を減らす行動があることがわかってきました。

 

科学が「効果がある」とお勧めするのは以下のようなアクションです。

言ってみれば、頭痛にはロキソンニンとか、お尻のトラブルにはプリザエースとか、

そういう結びつきのように、これらはネガティブ感情に効くことがわかっています。

 

2015年の新卒が研修中に教えてくれた実体験は

起こりうる変化として勇気づけられるエピソードかもしれません。

  • 寝る前、夜遅く、30分くらいかけて缶ビールを飲んで寝てたんです。 寝る間際にスカッとできるというか、ぼんやり寝入ることができるというか。 でも、その30分を軽い「運動」にあてて身体を動かすように変えたんです。 翌朝、身体には多少の疲れがありますが、ビールよりもよっぽど気持ちいいんですよ。
  • もともと「日記」の習慣があったので、研修で教わったように、 あえてネガティブなことも思い切って書くようにしたんです。自分しか見ないし。 正直、書いたものを直視するのは気持ちいい経験ではないんですが、 不思議と書き出したらそれでお別れという感覚があって、今までよりも楽なんです。

僕のお勧めは、「自然に触れる」ということです。

 

これはwell-beingワークショップでも伝えてきたことですが、

自然は私たちの心身を最適な状態に整える力があることが昨今の研究でわかっています。

 

いつもは都心のオフィスで仕事をしている若手ビジネスパーソンを

自然環境でリモートワークをさせた日本の研究によると、

気分みや苛立ちが減少、またネガティブ感情の反芻が減少、一方で創造性が向上するなど

目覚ましい効果が見えることがわかっています。

 

イギリスの研究では、1週間で120分程度自然に触れる経験で、

メンタルヘルスが向上するというレポートもあります。

1日に20分程度と考えると、そんなに高いハードルでもなさそうです。

 

都会のエンターテインメントに身を投じてリフレッシュするのもいいとは思いますが、

より効果的な「自然に触れる」という方法を今後の選択肢としてもいいと思います。

 

ちなみに、自然の持つ心身への影響は、ここ久米島に来てより一層感じてます。

雨が降れば豪雨、風が吹けば暴風、島民歴が浅い今は恐ろしいと思うこともありますが、

それでもなお、豊かな緑に囲まれて、海を眺められる日常生活は、

心を静かに整え、前向きなエネルギーを涵養することに通じていることを実感しています。

夕方は自宅近くを休校中の子供たちとともに散歩することが楽しみ。海を眺めながら「瞑想」する時間は、リフレッシュを越えて、仕事の重要なアイデアが生まれる時間にもなる。

【3】柔軟で前向きな意味づけ

新規営業時代、電話をかけて、かけて、かけて、

3000件も断られると、自然、僕はこう思うようになったものです。

 

「あー、おれって世の中に求められてないんだな」

 

似たような気持になる新規営業担当は毎年の新卒研修で少なくない数いたので

もしかしたらこれは営業の陥りがちなところなのかもしれません。

 

ところが当時僕にはこんなことを言ってくれる心優しい仏のような先輩がいました。

 

「オマエが不要っていうか、サービスが不要だって言われていると考えたら」

 

たしかに、僕は3000回断られているけれども、

「あなたは世の中に求められている存在ではありません」

などとは一度たりとも言われていなかったのです。

しかし、どん底にいる僕は(僕の知る新卒社員も)そう考えてしまっていた。

 

ここにはレジリエンスを発揮するための重要なポイントがあります。

ポジティブ心理学の創始者であるセリグマン博士が提唱する「説明スタイル」と呼ばれる考え方です。

 

当時の僕は、セリグマン博士の定義によれば、悲観主義者。

悲観主義者は、何事も、「個人的」「普遍的」「永続的」に捉えます。

 

たとえば、こんな感じです。

・営業の世界に私は求められていない。(=個人的)

・きっとビジネスの世界でも私はそんな存在なんだろう。(=普遍的)

・社会人生、ずっとこんな日々が続くのだろう。(=永続的)

 

一方、楽観主義者は、悪いことが起こったときは意志の力で、

個人的にも、普遍的にも、永続的にも受け取らないように努めます。

 

たとえば、

・多くのビジネスパーソンが同じような経験をしているのだろう。(=一般的)

・営業という世界で私は苦労するタイプなのだろう。(=限定的)

・それでもこれは今だけ、近いうちに状況を変えられるだろう。(=一時的)

 

ここで重要になるのは、「意志の力」で「努める」ということです。

つまり、楽観主義とは学習によって育むことができるということです。

放っておくと悲観主義のほうに引っ張られるものだから、

自分が今どのような説明スタイルで自分に話しかけているのかに自覚的になり、

「意志の力」で「努める」ことで楽観的に考える力を養っていく。

 

新卒研修ではこれをABC理論というものに沿って説明してきました。

私たちは、たとえば、「あの人がこういうから、こんな気持ちになった」と言います。

しかし、ABC理論によれば、「こんな気持ちになった」のは「あの人がこう言った」からではなく、

そんな気持ちになる「考え方」をしているからということなります。

 

同様に、何事も「個人的」「普遍的」「永続的」に考えているから、

今のその「ネガティブな感情」は生じているのかもしれません。

これは一考に値することだと思います。

 

最後に、ABC理論をうまく活用できるようになるためのヒントで締めくくりたいと思います。

 

自分の考え方を変えるためには、どんな考え方をしているのかに気が付く必要があります。

そのためのトレーニングとして以下のフレーズを活用するのはいかがでしょうか。

 

「私は〇〇を△△のように見ている・考えている」

 

通常私たちは「〇〇って△△」のような言い方・考え方をしています。

でも別の人が見たら「〇〇は××」なのかもしれません。

そこに「私は~見ている・考えている」というフレーズを加えると、

「それはあくまで私の考え方、他にも別の考え方があるかもな」

と気が付き、思考をほぐすことができるようになるかもしれません。

最近、久米島で問われたレジリエンス

運転免許を取得して15年以上、ゴールド免許を貫いてきた自分が、

路地の車庫入れで初めて車をへこませました。

台風から家屋を守る頑丈な塀は無傷、車は派手にへこんでました。

 

すぐさま、「自然」に触れて「運動」して「瞑想」して、

ありがたいことにへこんだのは車だけだった、家族には何事もなかった、

神様から慢心を戒めるためのサインが届いたのだと「感謝」して、

ゴールド免許ドライバーでもぶつけることはあるだろう(=一般的)

なぜか今日は車体の大きさを見誤った(=限定的)

初心に帰って車庫と対峙すれば大丈夫だろう(=一時的)

レジリエンスの知恵を総動員したのであります。

 

次回は、「上昇に尽力するフェーズ」についてです。



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この記事を書いたレポーター

鳥谷部大樹 
2020年3月、住み慣れた東京から家族5人で沖縄県久米島に移住しました。サトウキビとパイナップル畑、バナナの木に囲まれた自宅オフィスから、well-being(幸せ)についての研究とワークショップ、幹部向けパーソナルコーチング、コーチングトレーニングをしています。

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